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クレームされた発明とは矛盾する実施例が明細書に記載されているにもかかわらず、実施可能要件は満たされていると欧州特許庁技術審判部が判断した事件(2) [欧州特許実務(EP practices)]

(前回からの続き)

 (2) 経緯

 この出願は、新規事項の追加(EPC1973 123条(2))および開示不十分(EPC1973 施行規則27(1)(e)および83条)を理由として、審査部により拒絶が決定された。

 審査手続の中で審査部は、明細書および図面に含まれる実施例はいずれも、クレームされた「相互に分離された複数のアンテナ配線部分を結合する、1つのヘリカルループ形状のアンテナ」を開示していないという理由で、EPC1973 83条に基づく開示不十分の拒絶を提起した。

 そこで出願人は、提起された拒絶を解消するために、全てのアンテナ配線部分を結合して単一のループを形成するように、図8および図11と、関連する明細書の記載とを補正しようとした。しかし、この補正は新規事項の追加に該当すると審査部は判断した。

 そこで出願人は、提起された拒絶を解消するために、図8および図11と、関連する明細書の記載とを削除しようとした。しかし、補正後の明細書および図面は、多層プリント配線基板の中の分離されたアンテナ配線部分を互いに接続して単一のヘリカルループを形成する少なくとも1つの方法を詳細に示していないため、EPC1973 施行規則27(1)(e)および83条に適合しないと審査部は判断した。

 審査部の決定に対して出願人は、審判請求を請求し、審査部の決定の取消および特許付与を求めた。


 (3) 技術審判部によって許可された主請求のクレーム1の内容

 携帯端末装置(20)であって、

 ハウジング(24)と、

 前記ハウジングに収容されたアンテナ(25)と、

 前記アンテナに接続された配線パターンとを備え、

 さらに前記携帯端末装置は、

 前記ハウジングに収容された多層プリント配線基板(26)を備え、前記プリント配線基板は配線パターンを有し、

 前記アンテナはフラットケーブルアンテナであり、フレキシブルなベース(30)に形成された相互に分離された複数のアンテナ配線部分(31)を含み、

 前記複数のアンテナ配線部分を一つのループ形状で接続するように、前記配線パターンの一の部分と前記配線パターンの他の部分とが交差する交差部分が、前記プリント配線基板に設けられ、

 前記フラットケーブルアンテナ(25)は、その幅方向が前記プリント配線基板の平面に対して実質的に直立するように配置されている、携帯端末装置。

 (なお、技術審判部は結論を下す前の仮意見において、審査時のクレーム1の「ヘリカルループ形状」という文言が明細書にサポートされていないと認定した。このため、上記の主請求のクレーム1では、「ヘリカルループ形状」という文言が「ループ形状」に補正されている)


B.技術審判部の判断

 ループ形状に関する矛盾した明細書の記載の観点から、「前記複数のアンテナ配線部分を一つのループ形状で接続する」という、主請求のクレーム1の文言の意味について、出願人は、図8および図11に示される実施例を図7のアンテナと組み合わせたときに得られる、互いに独立した独立した複数のループの実施例を意味していると解釈することができる、と主張した。

 しかし、技術審判部は、出願人の解釈は技術的に意味が無く、明細書全体から得られる教示とは相反するものであるため、排除されるべきものであると判断した。技術審判部は、アンテナの技術分野の当業者は、図7と図8および図11との組み合わせから生じるアンテナ構造は、ループアンテナの特徴の限りにおいて技術的に意味がないことを直ちに認識するであろうと述べた。そして技術審判部は、図7と図8および図11との組み合わせから生じる閉じたループによって生じる磁場は、アンテナの能力に損害をもたらすものであると述べた。従って技術審判部は、図8および図11の実施例は多数の誤りを含んでおり、主請求の独立クレーム1の「一つのループ形状」の概念を解釈するために、図8および図11の実施例を考慮することはできないと判断した。

 結果的に、明細書の一般的な教示を信頼すれば、クレーム1の「一つのループ形状」という文言は、全てのアンテナ配線部分を結合した単一のループを意味するという解釈が、技術的に意味をなす唯一の解釈であることを当業者は認識するであろう、と技術審判部は判断した。

 また、部分的に誤りのある明細書および周知技術に基づいて当業者は発明を実施することができたか否かについて、技術審判部は次のように判断した。すなわち技術審判部は、図7、図8、および図11は、複数のループを含む実施例のみを構成しているので、独立クレーム1の単一のループ形状を示す実施例は明細書に示されていないと認定した。しかし、単一のループ形状を示す実施例が無いことが単一ループ形状の実施の障害になるわけではなく、明細書の「発明の概要」の記載またはクレーム1自体によって、単一のループ形状を可能にする十分な情報が提供される、と技術審判部は述べた。結論として技術審判部は、EPC1973 83条に規定される要件をこの出願は満たしている、と判断した。

 さらに技術審判部は、上述のようにこの出願の明細書は発明を実施するのに十分な情報を含んでいるので、EPC1973 施行規則27条(1)(e)に規定される要件をこの出願は満たしている、と判断した。

(次回に続く)

椿特許事務所
弁理士IT


【日誌】

ワールドカップ・サッカー日本代表、惜しくもベスト8進出を逃しましたが、日本のサッカー、アジアのサッカーが存在感を増してきたことを、世界に知らせることができた大会でした(当事務所にも、海外の特許事務所から、日本サッカーへの賞賛のメッセージが送られてきました(うちに送られてきても・・、と思いながらも、かなり嬉しい))。
(リーグ戦でない)トーナメント戦は、相手と同レベル(引き分けのレベル)であることでは足りずに、目の前の相手よりも抜きん出ること、目の前にいる相手に勝つこと(相手を倒すこと、相手よりも多く点を取ること)が必要とされる厳しいものであることを改めて実感しました(シチュエーションによっては、弁理士の仕事や、知的財産の実務でもそうですが)。よりパワーアップしていることが確実視される、次回2014年ブラジル大会での日本代表を見るのが今から楽しみです(その頃世界は、日本は、自分は、自分の周りは、どうなっているだろう?と想像するのもまた楽しい)。

椿特許事務所
弁理士TY

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