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平成20年(行ケ)第10305号審決取消請求事件(前回の続き) [進歩性の研究]

平成20年(行ケ)第10305号審決取消請求事件(前回の続き)


2.判決趣旨

審決が,「引用発明のシール帯域の端部の溝を設けた部分に形成される合成樹脂溜まり部は夾雑物を含むため密封性にはそれほど寄与しないものと認められ,合成樹脂の流れ込む溝を十分深く設けることで,溝を設けた部分に形成される合成樹脂溜まり部を非溶着の熱シールされない部分とすることは周知の事項(甲2,甲3)である」とした上で,「引用発明において密封性にはそれほど寄与しない合成樹脂溜まり部を,シール帯域の外側に隣接し,シール帯域としては機能しない部分として配置することも当業者が容易になし得た」と判断した点には,誤りがあるものと解する。


<引用発明について>

「合成樹脂溜まりを形成し得る溝が,シール帯域の端部に設けられている」とする引用発明の相違点に係る構成の技術的意義は,溶融した合成樹脂がシール部分Sの範囲を超えて過度に流れ出してしまうことにより,シール部分Sにおいて熱融着に寄与する合成樹脂の量が少なくなって適切な接合強度が得られず,また,シール部分Sから流れ出た合成樹脂が固化して包装容器の内側でヒビ割れを発生させることがあるという課題を解決するために,シール部分Sの範囲を超えて流れ出ようとする合成樹脂をシール部内の端部に滞留させることで,合成樹脂の流れを阻止して,シール部分Sの範囲から流れ出ない,あるいは,過度に流れ出すことがないようにした点にある,ということができる。


<本願発明について>

ヒートシール装置において,シール時にシール帯域内の液体を溶融樹脂とともにシール帯域外へ流出させる方法では,シール帯域の液体や汚れを完全に排除し,優れたシール性が得られるものの,容器内側に流出した溶融樹脂が均一にはみ出さず,これによって,容器内側の縁部に波打った溶融樹脂ビード7が形成されて,容器に圧力がかかった場合にビード7から亀裂が発生することがあるという課題を解決するために,シール帯域の容器内面側外側に隣接して合成樹脂溜まりを形成し得る溝を設けて,溶融樹脂を夾雑物と共にシール帯域から容器内面側に向かって押し流すことによって,シール帯域には夾雑物のない優れたシール性を有する薄い合成樹脂層を形成する方法とし,シール帯域から流出した樹脂を溝に流入させることで,容器内側に流出した溶融樹脂が均一な幅の合成樹脂溜まりを形成し,これによって,容器内側の縁部に波打った溶融樹脂ビード7が形成されないようにしたものである。

「合成樹脂溜まりを形成し得る溝が,シール帯域の容器内面側外側に隣接して設けられている」とする本願発明の相違点に係る構成は,優れたシール性を有する薄い合成樹脂層を形成するために,溶融された合成樹脂を夾雑物と共にシール帯域から容器の内側に押し流した時に,流出した合成樹脂が均一にはみ出さずに容器内側の縁部に波打った溶融樹脂ビードを形成することがあるという課題を解決するために,シール帯域から流出した合成樹脂を溝に流入させることで,合成樹脂の容器内側へのはみ出しを規制し,これによって,容器内側の縁部に波打った溶融樹脂ビードが形成されないようにした点にある。


<容易想到性の検討>

本願発明と引用発明との相違は,合成樹脂溜まりを形成する「溝」の設置場所のみであって,その構成における相違点は,一見すると,極めて僅かであるとの印象を与える。

しかし,上記のとおり,「溝」の設置場所の相違点によって,本願発明においては,シール帯域から流出した合成樹脂で容器内側に波打った溶融樹脂ビードが形成されないようにする解決手段を提供するのに対して,引用発明においては,シール帯域からの合成樹脂の流れ出しを規制してシール帯域の樹脂量を確保する解決手段を提供するものであるという点で,解決課題及び解決手段において,大きな相違があるというべきである。

引用発明は,シール帯域内に合成樹脂溜まり部を設けて,熱融着に寄与するポリエチレン樹脂の量を確保することにより,「接合強度を維持」するようにしたものであるから,単に,「溝を設けた部分に形成される合成樹脂溜まり部を非溶着の熱シールされない部分とする」ことを開示する周知例(甲2,3)を指摘することによって,その周知の技術を適用して,引用発明とは異なる解決課題と解決手段を示した本願発明の構成に至ることが容易であるということはできない。引用発明は,接合強度維持を目的とした技術であるのに対し,周知技術は,接合強度維持に寄与することとは関連しない技術であるから,本願発明と互いに課題の異なる引用発明に周知技術を適用することによって「本願発明の構成に達することが容易であった」という立証命題を論理的に証明できたと判断することはできない。

以上

椿特許事務所
弁理士TM

平成20年(行ケ)第10305号審決取消請求事件 [進歩性の研究]

平成20年(行ケ)第10305号審決取消請求事件

1.本願発明と引用発明との対比

<本願発明>
fig1.gif
        
【請求項1】
合成樹脂層を含む積層体からなる包材(1)をチューブ状とし、該チューブ状の包材(1)を、加熱機構(2)を有する開閉自在な一対の加圧部材(3,5)を用いて、液面下で横断状にヒートシールするシール装置において、加圧部材の少なくとも一方の作用面に、シール帯域の容器内面側外側に隣接して合成樹脂溜まりを形成し得る溝(16)が設けられていることを特徴とする
ヒートシール装置。

【発明が解決しようとする課題】液体飲料等の内容物が充填されたチューブ状包装材料(1)を液体が存在する状態で横断状にヒートシールするシール装置において、ヒートシールを良好に行うためには、チューブの加熱・加圧によるシール時に、チューブのシール帯域から液体をできる限り排除することが必要である。
【0009】本発明の課題は、上記従来のヒートシール装置における問題を解決しうるヒートシール装置、すなわち充分な樹脂の流動があり、容器の圧縮強度を損なわないようなヒートシール装置、詳しくはチューブ内面のごく僅かな凹凸に入った液体や汚れを溶融樹脂と共にシール帯域外へ流出させて完全なシール性を達成すると共に、容器内側に流出した溶融樹脂によるヒビ割れの発生がない圧縮強度に優れたヒートシールを達成することができるヒートシール装置を提供することにある。
【0028】図6~11に示される本発明のヒートシール装置は、包材1として合成樹脂層とアルミ箔層とを有する積層体を用い、加熱機構を有する開閉自在な一対の加圧部材として、平坦な作用面を有し、内部に冷却水通路14を有する高周波コイル2を備えたシールジョー3とシーリングゴム4を有する対向ジョー5が備えられ、該シールジョー3にシール帯域の容器内面側外側に隣接して合成樹脂溜まり15を形成し得るような溝16が設けられている。
【0029】そして、図6に示されるヒートシール装置は、溝16が平坦な作用面を有する高周波コイル2の容器内面側の一部とその外側にかけて設けられており、図7に示されるヒートシール装置は、溝16が平坦な作用面を有する高周波コイル2の容器内面側外側に隣接して設けられている。また、図8には、平坦な作用面を有する高周波コイル2の容器内面側の溝16に加えて、カッティング側外側に隣接して溝12が設けられているヒートシール装置が示されている。図9~11には、図6~8に示されるヒートシール装置の高周波コイル2の平坦な作用面に突条11を有するヒートシール装置が示されている。そしてまた、図12には、容器内面側に設けられた2本の溝16が平坦な作用面を有する高周波コイル2の両外側に設けられているヒートシール装置が示されている。

<引用発明>

fig2.gif
【0018】
したがって、包材の互いに対向する樹脂が溶融させられ、凸部によって押されても、前記溝内に紙基材及びアルミニウムホイルが膨出することによって両包材11の対向面に滞留部が形成され、該滞留部にポリエチレン樹脂56が滞留する。その結果、樹脂の流れは阻止され、シール部分の範囲から流れ出ない。そして、シール部分において熱融着に寄与する樹脂の量を確保することができるので、接合強度が小さくなるのを防止することができる。
【0037】そして、前記凸部71より内側には第1溝73が、凸部71より外側には第2溝75が形成される。また、前記インダクタ31は冷却媒体流路90を有し、該冷却媒体流路90内に冷却媒体を通すことによってインダクタ31の温度を調節することができる。前記インダクタ31は、前記高周波電圧変換回路85(図8)によって発生させられた高周波電圧が印加されると、インダクタ31と図示しないアルミニウムホイルとの間に前記高周波電圧に対応して変化する電界が形成され、領域AR3を磁束が流れる。その結果、前記アルミニウムホイルにうず電流を発生させ、うず電流損によってアルミニウムホイルが発熱する。
【0038】したがって、前記領域AR3に対応する部分だけが熱融着に寄与し、領域AR3がシール部分Sになる。ところで、前記第1溝73及び第2溝75が形成されているので、包材11の互いに対向するポリエチレン樹脂56が溶融させられ、凸部71によって押されても、溶融したポリエチレン樹脂56がシール部分Sの範囲を超えて過度に流れ出すことがないので、接合強度が小さくなるのを防止することができる。したがって、前記第1溝73及び第2溝75を前記領域AR3の両端に形成するのが好ましいが、領域AR4、AR5のいずれの部分にも形成することができる。なお、19はシールブロックである。
【0043】このとき、互いに対向するポリエチレン樹脂56が溶融させられ、溶融させられた該ポリエチレン樹脂56が凸部71によって押され、シール部分Sの範囲を超えて流れ出ようとするが、第1溝73及び第2溝75内に紙基材54及びアルミニウムホイル55が膨出することによって両包材11の対向面に滞留部が形成され、該滞留部にポリエチレン樹脂56が滞留する。したがって、ポリエチレン樹脂56の流れは阻止され、シール部分Sの範囲から流れ出ない。
【0044】その結果、シール部分Sにおいて熱融着に寄与するポリエチレン樹脂56の量を確保することができるので、接合強度が小さくなるのを防止することができる。また、前記高周波電圧変換回路85からの高周波電圧を高くして接合温度を高くしたり、前記シリンダ27に供給される作動媒体の圧力を高くして包材11を挟持する力を大きくしたりしても、接合強度を維持することができる。したがって、シール装置のサイクルの周期を短くし、高速処理を行うことができる。

<周知例(甲2)>
fig3.gif

<周知例(甲3)>
fig4.gif


2.判決趣旨
(次回に続く)

椿特許事務所
弁理士TM

平成20年(行ケ)第10096号審決取消請求事件 [進歩性の研究]

平成21年1月28日判決言渡
平成20年(行ケ)第10096号審決取消請求事件

・・・・

第4 当裁判所の判断

当裁判所は,審決には,相違点の看過についての誤りがあるか否かにかかわらず,引用発明のフェノキシ樹脂について,相溶性,接着性がより一層良くなるように,ビスフェノールF型フェノキシ樹脂を用いてみようとすることは,当業者が容易に推考し得たことであるとした点には誤りがあると判断する。

・・・・


特許法29条2項が定める要件の充足性,すなわち,当業者が,先行技術に基づいて出願に係る発明を容易に想到することができたか否かは,先行技術から出発して,出願に係る発明の先行技術に対する特徴点(先行技術と相違する構成)に到達することが容易であったか否かを基準として判断される。ところで,出願に係る発明の特徴点(先行技術と相違する構成)は,当該発明が目的とした課題を解決するためのものであるから,容易想到性の有無を客観的に判断するためには,当該発明の特徴点を的確に把握すること,すなわち,当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠である。そして,容易想到性の判断の過程においては,事後分析的かつ非論理的思考は排除されなければならないが,そのためには,当該発明が目的とする「課題」の把握に当たって,その中に無意識的に「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことがないよう留意することが必要となる。

さらに,当該発明が容易想到であると判断するためには,先行技術の内容の検討に当たっても,当該発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要であるというべきであるのは当然である。

・・・・

本願補正発明においてビスフェノールF型フェノキシ樹脂を必須成分として用いるとの構成を採用したのは,ビスフェノールA型フェノキシ樹脂を用いることに比べて,その接続信頼性(初期と500時間後のもの)及び補修性を向上させる課題を解決するためのものである。

一方,前記1,(2)の引用例には,「フェノキシ樹脂は・・・エポキシ樹脂と構造が似ていることから相溶性が良く,また接着性も良好な特徴を有する」(甲4の段落【0007】)と記載されており,格別,相溶性や接着性に問題があるとの記載はない上,回路用接続部材用の樹脂組成物を調製する際に検討すべき考慮要素としては耐熱性,絶縁性,剛性,粘度等々の他の要素も存在するのであるから,相溶性及び接着性の更なる向上のみに着目してビスフェノールF型フェノキシ樹脂を用いることの示唆等がされていると認めることはできない。

また,一般的に,ビスフェノールF型フェノキシ樹脂が本願出願時において既に知られた樹脂であるとしても(乙2,3),それが回路用接続部材の接続信頼性や補修性を向上させることまで知られていたものと認めるに足りる証拠もない。

さらに,ビスフェノールF型フェノキシ樹脂は,ビスフェノールA型フェノキシ樹脂に比べてその耐熱性が低いという問題があること,すなわち,「JOURNAL OF APPLIED POLYMER SCIENCE VOL.7,PP.2135-2144(1963)」(甲6)によれば,ビスフェノールF型フェノキシ樹脂(化学構造から,甲6の2138頁TABLE IのPolymer No.2に該当する。)のガラス転移点は「80℃」であり,ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(化学構造から,甲6の2139頁TABLE IIのPolymer no.3に該当する。)のガラス転移点は「100℃」であり,ビスフェノールF型フェノキシ樹脂の耐熱性が低いものと認められる。

上記のビスフェノールF型フェノキシ樹脂の性質に照らすと,良好な耐熱性が求められる回路用接続部材に用いるフェノキシ樹脂として,格別の問題点が指摘されていないビスフェノールA型フェノキシ樹脂(PKHA)(甲4の段落【0022】)に代えて,耐熱性が劣るビスフェノールF型フェノキシ樹脂を用いることが,当業者には容易であったとはいえない。

イ 審決は,引用発明にビスフェノールF型フェノキシ樹脂を用いることが容易である根拠として,「引用例には・・・実施例として『PKHA(フェノキシ樹脂,分子量25000,ヒドロキシル基6%,ユニオンカーバイド株式会社商品名)』・・・を用いることも記載されている」点を挙げる(審決書5頁28行~6頁4行)。しかし,審決が引用する「PKHA」(甲4の段落【0022】)は,特開平9-279121号公報において,「PKHA(ビスフェノールAより誘導されるフェノキシ樹脂・・ユニオンカーバイト株式会社製商品名・・・)」との記載があり(甲5の1の段落【0086】),また,米国特許第4343841号明細書においても,「これらの樹脂は,ユニオンカーバイド社からBakeliteフェノキシ樹脂・・PKHA・・として商業的に入手でき,そして,ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから得られる高分子量熱可塑性ポリマーと表現される。」(甲5の2第4欄44行~48行。訳文)との記載がある。

したがって,審決が引用する「PKHA」は,ビスフェノール「A型」のフェノキシ樹脂であり,ビスフェノール「F型」のフェノキシ樹脂ではないから,引用例の「PKHA」との記載は,ビスフェノールF型フェノキシ樹脂を用いることに対する示唆にはなり得ない。

(3) 小括
以上の事実を総合考慮すれば,引用例に記載された発明のフェノキシ樹脂についてビスフェノールF型フェノキシ樹脂を用いることが当業者にとって容易想到であるということはできず,本願補正発明が特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとした審決の判断には誤りがあり,その誤りは審決の結論に影響を及ぼすものといえる。

3 結論

以上のとおり,原告主張の取消事由2(相違点についての容易想到性判断の誤り)には理由があり,その余の点について判断するまでもなく,原告の本訴請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 齊木教朗
裁判官 嶋末和秀


【メモ】

進歩性判断において、裁判所は、

(1)審査対象の発明の「課題を的確に把握すること」が必要不可欠である旨、

(2)容易想到性の判断の過程においては,事後分析的かつ非論理的思考は排除されなければならない旨、

(3)審査対象の発明が目的とする「課題」の把握に当たって,その中に無意識的に「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことがないよう留意することが必要である旨、

(4)さらに,当該発明が容易想到であると判断するためには,先行技術の内容の検討に当たっても,当該発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要であるというべきであるのは「当然」である旨、を判示した。


椿特許事務所
弁理士TY

進歩性に関する近時の判断傾向(平成20年(行ケ)第10398号) [進歩性の研究]

【出願時に当業者が発明の解決課題を認識していないこと、および動機付けがないことは、進歩性を肯定する理由となる】

平成21年10月22日判決言渡
平成20年(行ケ)第10398号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年9月17日

・・・・
ウ したがって,本件各発明において,個々の化粧用パック材にWJ加工を施すことにより解決すべき主たる課題は,化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちの防止にあったということができる。

エ そして,化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちを防止することが,本件出願当時の当業者にとって自明又は周知の課題であったと認めるに足りる証拠はなく,かえって,被告が,化粧用コットンはコットン繊維を積層したものであるため層の境界から容易に剥離することのできるものであると主張するところ(取消事由2に係る主張(3)ア)に照らすと,本件出願当時の当業者は,化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちを防止することを解決課題として認識していなかったものと認めるのが相当である。

・・・・

イ 上記引用例の記載によると,WJ加工は,ふっくらと仕上げられ,内部に空気を含んでかさ張った状態となる単位コットンを圧縮包装するとの構成を採用した発明において,単位コットンをふっくらとした,毛羽立ちが少なく,肌に優しい状態のものに仕上げるための手法の一例として挙げられているにすぎず,その他,引用例には,積層構造体として形成された単位コットンから各層を剥離した際に生じる毛羽立ちを防止するため,各層にWJ加工を施すことを動機付ける旨の開示又は示唆はない。

・・・

ウ そして,その他,本件全証拠によっても,化粧用パッティング材(化粧綿)から剥離される各層(各シート部材)にWJ加工を施すことを動機付ける旨の開示又は示唆のある刊行物(本件出願前に頒布されたもの)が存在するものと認めることはできない。


(3) 本件審決の判断の当否

上記(1)及び(2)のとおり,化粧用パック材にWJ加工を施すとの本件各発明の構成は,化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちの防止を主たる解決課題として採用されたものであるところ,同課題が本件出願当時の当業者にとっての自明又は周知の課題であったということはできず,また,引用例を含め,化粧用パッティング材(化粧綿)から剥離される各層(各シート部材)にWJ加工を施すことを動機付ける旨の開示又は示唆のある刊行物(本件出願前に頒布されたもの)は存在しないのであるから,仮に,本件審決が判断したとおり,引用発明に周知事項1及び2を適用して各層(化粧用シート部材)の側縁部近傍を圧着手段により剥離可能に接合するとともに,各層を化粧用パック材として使用することが,本件出願当時の当業者において容易になし得ることであったとしても,また,引用発明の単位コットン(化粧用パッティング材)がWJ加工を施したものであることを考慮しても,これらから当然に,各層を1枚ごとに剥離可能としてパック材として使用する際にその使用形態に合わせて各層にWJ加工を施すことについてまで,本件出願当時の当業者において必要に応じ適宜なし得ることであったということはできず,その他,引用発明の各層にWJ加工を施すことが本件出願当時の当業者において必要に応じ適宜なし得たものと認めるに足りる証拠はないから,相違点1に係る各構成のうち化粧用パック材にWJ加工を施すとの構成についての本件審決の判断は誤りであるといわざるを得ない。

この点に関し,被告は,審査基準が想定する当業者であれば,引用発明の各層を1枚ごとに剥離可能としてパック材として使用するときは各層にWJ加工を施すものであるなどと主張するが,上記説示したところに照らすと,そのようにいうことはできないし,その他,被告主張に係る事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって,化粧用パッティング材(化粧綿)から剥離された各層(各部材)にWJ加工を施すことは引用発明から容易に想到し得るものではないのに,この点を看過した相違点1についての本件審決の判断は誤りであるというほかなく,原告主張の取消事由2は理由があるといわなければならない。

3 結論
以上の次第であるから,取消事由2に理由がある以上,その余の各取消事由について判断するまでもなく,本件審決は取り消されるべきものである。

知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 本多知成
裁判官 浅井憲
-----


【メモ】

知的財産高等裁判所第3部から始まったと思われる、進歩性の判断基準をより客観的、明確にしようとする流れは、産業界にとって好ましいものと考える。解決課題の認識や、動機付けがあったかどうかに着目すべきことは、29条2項の法文(審査対象である明細書が存在しない時期を示す「特許出願前に」の文言)から必然であると思うし、特許を拒絶・無効にする場合の挙証責任の配分を考えても、最近の知財高裁の判断は正しい方向に向かっていると思う(思えば、昔(15年ぐらい前)の審査基準では、「目的、構成、効果の全てを考慮して進歩性の有無を判断する」旨が書かれていたように覚えている)。

世界水準から見た日本の進歩性判断の水準は、もちろん時代によって異なるが、「日本特許庁は、なぜゆえそこまで厳しく審査をする必要があるのだ」という見解を持つ人は多かったようであり、「日本の特許庁は、特許庁(Japan Patent Office)でなく、拒絶庁(Japan Rejection Office)だよ」、という外国の弁理士の間でのジョークがあるぐらいである(僕が言いだしたわけではないので、特許庁関係の方はどうか気分を悪くされないで下さい)。

椿特許事務所
弁理士TY

「進歩性検討会報告書2007」を読んで(4/17) [進歩性の研究]

特許庁 審判部発行「進歩性検討会報告書2007」(平成20年3月)(特許庁のWEBサイトに3月31日付けで記載)を読んで

当報告書では、特許出願のうち拒絶(または特許無効)が確定したもの(特許が確定したものは除外されている点に注意)に関し、分析が行なわれている。
リパーゼ判決に関連する事案について、以下のように述べられている。

『7.検討事項及び検討結果
(1)検討事項1
本件補正発明は、第1のデータストレージファシリティと第2のデータストレージファ
シリティとを有するシステムにおいて、両者を切り離した上、第2のデータストレージフ
ァシリティを第2のアプリケーションに接続することを可能としたものであるが、この第
2のアプリケーションとは、バックアップというよりも、むしろシミュレーション等とし
て用いることを技術思想としているものである。一方、審決では、ディスク装置(データ
ストレージファシリティ)が二重化された計算機システムにおいて、両者を切り離した状
態にして、一方のディスク装置に対するバックアッププロセスを行うことは周知であると
し、本件補正発明における当該事項は、当業者にとって容易である旨判断したが、これは
妥当なものであるか。

【検討結果(主な意見等)】
①クレームは、いわゆるリパーゼ事件における判例のとおり、原則その記載どおり認定す
ることが確立された運用である。そして、本件補正発明における第2のアプリケーション
は、その記載からバックアッププロセスを包含すると解釈でき、これを排除するものでは
ない。したがって、審決及び判決が周知のバックアッププロセスを第2のアプリケーショ
ンに相当するものとして判断を行った点に問題はないと考えられる。
②一方で、リパーゼ判決の議論とは前提が異なるのではないかとの意見もあった。すなわ
ち、リパーゼ判決においては、特許請求の範囲に記載された「リパーゼ」が「Raリパー
ゼ」に限定されるかどうかの議論であり、この場合において「リパーゼ」は、「Raリパー
ゼ」と「Raリパーゼ以外のリパーゼ」の両方を含む意味をもつことが社会通念上あるい
は技術上明らかであった。一方、当該第9事例における議論は、「第2のアプリケーション」
がどのような思想・技術的意義を持つかに関する議論であって、「第2のアプリケーション」
の文言からだけでは、その内容を把握することはできないから、明細書の記載内容を吟味
した上でその技術的意義を画定しなければらなかったのではないかとの意見もあった。
③また、「第2のアプリケーション」の文言にかかる発明の要旨認定にあっては、リパーゼ
判決にいう「特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができな
い」場合にあたるのではないかとの意見もあった。

・・以上のように、議論となった原因は様々であるが、いずれにせよ、本願発明の認定は、
特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができない等、特段の
事情がない限り、特許請求の範囲の記載に基づいてなされることが原則として確立してい
る。したがって、本願発明の認定に当たって発明の詳細な説明の記載を参酌した上で、こ
れを限定解釈すべきであるとの主張は、通常受け入れられないことに留意すべきである。
また、特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項については、作用、
機能、特性、製造方法等、様々な方法で記載することが可能であるものの、そのような表
現による発明の要旨認定に当たっては、それらの表現に該当するすべての物を意味してい
ると解されるため、当初自らが想定する物以外のものも含まれ得る可能性があることに注
意すべきである。』


【考察】
(1)リパーゼ判決により、審査段階におけるクレームの文言解釈の基本的な考え方に関しては、一応のルール付けがなされた。

(2)しかしながら、「特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができない等の特段の事情」とは具体的にはどのような事情をいうのかなど、議論の種は尽きない。

(3)また、「特許請求の範囲の記載に基づいて」とは言うものの、記載からどのような解釈をするのかは人により分かれる。クレームに用いる用語として多義語が存在することからも、それは当然である。当報告書の、「当初自らが想定する物以外のものも含まれ得る可能性があることに注意すべきである。」の言葉はまさにその通りであるといえる。
たとえば「表示手段」という文言が特許請求の範囲に記載されている(そして実施例ではモニタ画面がそれに対応している)ときに、ある人は視覚による表示に限るものと「表示手段」を解釈するであろうし、音声による表示を含むと解釈する人もいるであろう。どちらの判断が正しいのか、結局のところ明確ではない(そのため、実務では予測不可能なことが多々生じる)。

[TY(弁理士)]
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